校長先生の小窓を開けると

卒業生に聞いてみました 東京都葛西臨海水族園 内山さん 後編

内山 幸さん(24期生) (東京都葛西臨海水族園勤務)
(習志野市立習志野高等学校卒、本校2012年4月入学/2014年3月卒業)

ほぼ2年間にわたって全国の動物園水族館にコロナの影響がありましたが、ようやく沈静化がみられるようになったので、久しぶりにインタビューすることになりました。
前回に引き続きその2回目、東京都葛西臨海水族園に勤務する内山幸さん・24期生です。
今回もよろしくお願いします。

北村 今回は、内山さんが担当するペンギンについて、いろいろと伺います。
ペンギンについていろいろと知ることができる絶好の機会なので、とても楽しみにしていました。
まず、日本で最初にペンギンを飼育したのは、どこの動物園ですか?

内山 ペンギンの飼育に関しては、1915年(大正4年)に上野動物園に寄贈されたフンボルトペンギンが最初だったという記録があります。

北村 そう、上野動物園でしたね。
日本初の動物園、明治15年(1882)開園で、2番目の京都は明治33年(1900)
なので、全ての動物の飼育は上野から始まる、と、言われていましたよね。
では、国内、国外、野生状態などのフンボルトペンギンの現状について、教えてください。まず、国内の飼育や繁殖状況はどんな具合ですか。

内山 そうですね。現在の国内飼育や繁殖は順調です。それはご存知の通り、多くの先輩(葛西水の福田氏など)の努力や試行錯誤があったからです。

北村 そうでしたね。思い出しました。福田さんの時代、私は日動水(JAZA) にいて、卵移動時の輸送箱問題とか、いろいろと難問にぶつかりながらやりました。

※日動水(JAZA)とは、(公益社団法人)日本動物園水族館協会のことで、
全国の動物園・水族館の園館長を会員とし、お互いの協力のもと、種の保存などの園館の各種事業の推進により共生社会の実現に寄与することを目的としている。

内山 現在では、「個体群を管理する」ことが非常に重要になっています。血統を考慮しながら、計画的に移動や繁殖をすすめて健全な個体群になるよう努めることで、この先も日本でフンボルトペンギンの飼育・展示を継続していけるように全国規模で協力しあっています。私たちの園の鳥類担当職員は先輩と私の計2名で、日本のフンボルトペンギンの個体群管理を先輩が担当しています。
(ちなみに、ペンギンの仲間ではありませんが、私はウミガラスとエトピリカの個体群管理を担当しており、ペンギン類作業部会に所属しています。)

北村 さすが、葛西臨海水族園ですね。
2名が関係しているなんて、スゴイです!

内山 一方、野生の状況ですが、気候変動や餌資源の減少、巣穴となるグアノ(※)の採
掘による繁殖地の減少、漁業における混獲など、様々な要因で生息数が脅かされて
います。そんな中、一時は生息数が激減しましたが、現在は現地の保全活動などに よって少しずつ回復してきていると言われています。しかし、主な脅威がなくなったわけではないため、油断はできない状態です。

フンボルトペンギン((公財)東京動物園協会提供)

※グアノ:ペンギンなど海鳥の排泄物が堆積し固化したもので、リン酸等に富むものは、リン鉱石とし,窒素に富むものは大事な肥料として用いられ、過度の採掘が心配されている。

北村 ところで、ペンギン研究会をはじめ、他園や、各種団体にも参加して、
交流を図ったりしているのですか。

内山 はい。他の情報も大切ですので、JAZAの生物多様性委員会のペンギン類作業部会
の所属でもあり、外部のペンギン会議にも参加したりしています。

北村 実は、私の楽しみの一つが、JAZAのホームページを見ることなんです。
特に、卒業生の研究会発表など、楽しく拝見しています。
現在の葛西臨海水族園の飼育ペンギン種と、それぞれの特徴を簡単に教えてくだ
さい。

内山 葛西臨海水族園では、フンボルトペンギン、フェアリーペンギン、ミナミイワト
ビペンギン、オウサマペンギンの4種を飼育しています。
写真とともにその特徴など、簡単に説明しましょう。

フンボルトペンギン:全長約68cmで、南米のチリやペルーの太平洋沿岸などに生息してい
ます。嘴の根元がピンク色で、胸に1本の黒い線があるのが特徴です。


フンボルトに給餌しているところ((公財)東京動物園協会提供)


フンボルトに給餌しているところ((公財)東京動物園協会提供)

フェアリーペンギン:全長約40cmで、ペンギンの中で1番からだが小さい種です。オーストラリア南部やニュージーランド沿岸に生息しており、頭部から背中側にかけて生えている羽が、青みがかった色をしていることが特徴です。


フェアリーペンギン((公財)東京動物園協会提供)


フェアリーペンギンへの給餌((公財)東京動物園協会提供)

北村 フェアリーについては、30年ほど前、メルボルンの近くの海岸で見ています。
夜間、海岸に観光客がずらりと並び、まもなくフェアリーが上がって来ます。
カメラ撮影厳禁で写したらカメラを没収する、と何度も注意がありました。
しかし残念ながら、何故か、上陸時にフラッシュが光り本当に没収されたようです。見ていると、フェアリーは、次から次と海から上がってきて、よちよち歩きで、観光客の横を通り過ぎ、奥の草むらへ移動していました。
帰りは10時過ぎとかなり遅く、バスの中から大きな南十字星を見たことが印象に残っています。

ミナミイワトビペンギン:全長約45~55cmで、南極大陸周辺の島々などに生息し
ています。目の上あたりから生えている黄色い冠羽が特徴的で、
その名の通り岩の上を飛び跳ねるように移動します。

 


ミナミイワトビペンギン((公財)東京動物園協会提供)

オウサマペンギン:全長約95cmで、ペンギンの中で2番目に大きい種です。南極周辺の
島々に生息しています。頭部の側面と首元に黄色い羽が生えており、嘴の下側の側面(下嘴板(かしばん))がオレンジ色をしているといった特徴があります。


オウサマペンギンの給餌((公財)東京動物園協会提供)

北村 オウサマは、さすがに大きく、見ごたえがありますね。
奥のフンボルトとは姿形は大きく異なっています。
次に、フンボルトとフェアリーの国内飼育状況を教えてください。

内山 国内では、フンボルトペンギンは約1900羽、フェアリーペンギンは約50羽程度飼育されています。
そして補足の説明になりますが、フェアリーペンギンとコガタペンギンは同じ種で
す。このことについては、当時、葛西臨海水族園でこの種の展示を開始すると
なったときに、外国産鳥類の和名を表記する際に準拠としていた辞典では「コビ トペンギン」、別の書籍では「コガタペンギン」という和名が使われていました。
しかし、「コビト」は差別用語にあたること、「コガタ」は体格の大きさを表す「大 型」「小型」という一般名詞のため紛らわしいということになり、園内で検討した結果、ペンギンを搬入したオーストラリア南東部で通称として使われていた「フェアリーペンギン」を採用したという経緯があります。

北村 そういうことですか。種の和名は、難しいですよね。昔、私が訪ねた
オーストラリアでは、フェアリーと言っていました。
さて、次の質問です。フンボルトとフェアリー、この2種は体格差もあり、隣り同士の飼育で完全に分離されていますが、お互いを意識はしているものですか、それとも、どちらも無関心ですか。

内山 普段はそこまで意識はしていなさそうです。
ただ、過去(1993年まで)に一緒に飼育していたことがあったようですが、フェア
リーペンギンがフンボルトペンギンに追い回されることが頻繁にあったそうです。
そのため、争った場合に体の小さいフェアリーペンギンが怪我をしてしまう恐れが
あることと、繁殖期に2種とも巣穴で繁殖をするので巣穴の取り合いになった
場合などにフェアリーペンギンが負けて繁殖ができない可能性があることから、現
在のように分けて飼育をする形になりました。

北村 餌についての質問です。例えば、オウサマはかなり大型、フェアリーはかなり小型ですが、餌の種類や回数は同じですか、違いますか。
また、平均的な1食の合計重量はどれくらいですか。

内山 餌の回数は同じ1日2回ですが、種類は違います。オウサマペンギンはアジやマ
イワシですが、フェアリーペンギンは体が小さいため大きい魚を飲み込む
と消化管などを傷つける恐れがあることから、キビナゴやワカサギなどの小さめ
の魚を給餌しています。
採食量は時期によってだいぶ異なるため(換羽前後や繁殖期など)、平均となると
難しいのですが、4種200羽以上を合わせた総給餌量は多くて150kg以上、少
なくて60kgほどです。
餌を食べ終わるスピードや、給餌前後のペンギンの様子、残餌量などを参考に、
都度給餌量を変更しています。

北村 ペンギンはたくさんの魚を食べるというのも驚きですが、その食べるスピードも
速いですよね。私は「ハヤグイ」で、もっと「ゆっくり」食べたらと妻からよく言われるのですが(笑い)ペンギンの、飲み込む速度よりは「ゆっくり」していると思っています。
次に、個体管理(識別)について教えてください。ペンギン類は翼帯(よくたい)の
色や数で識別しているのが知られていますが、実際には、翼帯ですか、顔や姿等で
しょうか。

内山 識別方法は施設によって様々(翼帯の法則もそれぞれです)ですが、当園では翼帯で識別しています。赤は「1」青は「2」というように法則があり、それらを組み合わせた数字で識別しています。
顔や姿で見分けがつく個体もいますが、当園ではフンボルトペンギンだけで約140羽
飼育していることや、個体群管理や引継ぎなどで、人が変わったとしても間違えない
ように個体識別が重要となってくるため、誰でもわかるように翼帯をつけ、さらに
マイクロチップも挿入しています。

北村 掃除について、聞きます。葛西水の外の放飼場は、かなりデコボコのようなのですが、フンがこびりついて落とし難そうです。コツは何ですか。

内山 コツよりは機械ですね。(笑)
多い時には200羽以上のペンギンが展示場に出ているため、衛生面に気を付け、しっかり汚れが落とせるように高圧洗浄機を使って毎日掃除しています。

北村 ペンギンはあまり鳴かないといわれますが、どんな時に鳴きますか。

内山 当園では鳴いている様子が頻繁に観察できます。仲間とコミュニケーションをとる時、ペアで求愛している時、巣を主張している時、闘争している時、雛が親
に餌をねだる時など、様々なタイミングで鳴いています。

北村 ペンギンの飼育係になってよかったことは何ですか。

内山 当園では200羽以上のペンギンを飼育しているため、観察が非常に重要になりま
す。体型や呼吸、採食量、糞など、様々な観点から健康状態を観察する力が
鍛え、養われていると痛感します。
また、日本のペンギン類は個体群管理にも力を入れているため、個体群統計学や
遺伝学について学べる機会があったり、他園館の飼育係・研究者とのコミュニテ
ィーも幅広かったりするため、考え方の勉強にもなっています。
治療時の保定などの機会も頻繁にあり、飼育係として知識や経験の面で成長でき
る機会が多いことが良いなと感じています。

北村 イャー、まじめだナ。
外の放飼場で掃除していると、お客様から質問とか、どんな声がかかりますか、

内山 掃除中よりは、ガイドを兼ねた給餌後に質問があることが多いです。
ペンギンの種類や生態、特徴、その時に見られた行動について、特定の個体に
関する質問、展示場についてなど様々です。

北村 ペンギンの飼育係志望の学生さんに対してアドバイスはありますか。
必要なこと(体力、学力、気持ちなど)は何ですか。

内山 園館にもよるかもしれませんが、必ずしも希望した動物の担当になれるわけではな
いことの方が多く、担当動物によって注意点や必要なことも変わってくるので、こ
ちらが動物に合わせて努力していくことのほうが必要にはなりますが・・・
当園の鳥類担当飼育係の場合は、体力は必須です。
事例はたくさんありますが、代表的なものだと、広い屋外の展示場の掃除をしたり、
重い餌のバケツ(多いと20kgくらい)の中に入った魚をプールに撒いたりなど・・・
また、ペンギンは注目度が高く、飼育園館も多く、研究も盛んにおこなわれている ため、情報量や情報の更新が多く、日々学ぶ姿勢が大切だと感じます(私も頑張ります・・・)。

北村 長時間にわたり、お答えいただき感謝いたします。私も昔は飼育係でしたが、内
山さんのように頑張って仕事をしている卒業生を見ると、本校の教育内容など、
なんだか、私の方も勇気づけられた気がします。
今日は、ペンギンについてたくさん学ぶことが出来ました。
ありがとうございました。

参考資料
日動水資料から                                 (終わり)