2017年度

第8回 卒業生に聞いてみました 宇部市ときわ動物園 川出さん

第1回  宇部市ときわ動物園 川出比香里さん(22期生)


先ず、下の動画をごらん下さい。

私は、動物園や水族館などの訪問時には、卒業生に声をかけ、最近の仕事の様子や飼育動物についての質問をするようにしています。
今回は、山口県宇部市の「ときわ動物園」で飼育員として活躍している、22期生の川出比香里さんにお会いし聞いてみました。

(写真2)川出比香里さんと私

北 村
 当校の卒業生は全国で頑張っていますが、特に最近の川出さんの活躍ぶり、~ハズバンダリートレーニングや環境エンリッチメントに関して(注1)~が気になっていました。そこでこれから本校を目指す高校生やその保護者の方に、動物園の飼育係の実際の仕事のことを知ってほしいと思い、新しい世代の代表として川出さんのお話しを聞きたかったのです。
確か、川出さんは卒業後「埼玉こども動物公園」にアルバイトとして就職。しかしその後、どうような経緯で現在の「ときわ動物園」になったのですか。

川 出
 在学中は就職活動がうまくいかず、卒業式当日にも就職先が決まっていない状況でした。しかしその後、埼玉こども動物公園のアルバイトとして採用していただき、動物園の飼育員の一歩を踏み出すことができました。
埼玉こども動物公園はとても好きな動物園でしたし、先輩方もよく指導してくださってとても働きやすい職場でした。でも、アルバイト中も、他園の正規職員への転職を考えて就職活動を続けました。

(写真3)卒業式時の川出さん(真ん中)

正規職員を希望したのは、経済的な面はもちろんですが、正規職員になると、できる仕事の幅が広がるためです。
そして、埼玉こども動物公園での仕事を通して様々な先輩方の仕事への考え方を知り、自分が何をすべきなのかようやく気が付きました。
私は、自然と動物、自然と自分とのつながりを伝えられるような仕事がしたいと思いました。そう考えたときに、動物そのものだけでなく環境まるごとを見せる生息環境展示に魅力を感じ、そんな動物園で働きたいと思いました。そこで、ときわ動物園を受験。採用面接で動物園のリニューアルに向けた強い姿勢を感じました。
「この園で働きたい!」
私の地元・埼玉からは離れた土地でしたが、きっと充実した日々が送れるだろうと思いました。

北 村
 現在の担当動物は、国内ではかなりの少数種のトクモンキー、ハヌマンラングール、更にシシオザルですね。シシオ以外は、ときわ動物園とモンキーセンターにしかいないような種、かなり面白そうだけど自分で手をあげたのですか。

川 出
 担当動物は、特に希望を出すわけではなく組織の決定です。
実は、学生時代、サルは苦手で富里の実習では毎回「サル舎の担当になりませんように」と願っていたくらいです。しかし今は、すっかりサルの魅力にはまってしまっている自分です。皆さんも担当すれば、きっとどの種も好きになるだろうと思いますよ。

北 村
 シシオ以外の繁殖計画はかなり難しいと思うのですが、海外動物園との調整など必要ですね。

川 出
 はい。私の担当動物に限らず、当園ではすべての種で繁殖計画を作成していて、種によっては国内外の動物園と協力していかなくてはなりません。

北 村
 面白いなと思ったのは、川出さんが担当のシシオザルにドリアンを与えてみようと計画したことです。結果は残念でしたが、そのアイデアはどこから思いついたのですか?

川 出
 アイデアというほどのことではありません。すでにご覧になったかと思いますが、当園のシシオザル展示場には、ジャックフルーツを模したフィーダーがあります。
しかし、シシオザルの食性や生息環境を展示に則して伝えるためには、本物のジャックフルーツを与えてみたいと思ったのです。
でもジャックフルーツは手に入りづらいし、また多くのお客様がそれを見てドリアンと勘違いされるのです。その様子を見て、それなら外見が似ていて外皮を食い破る姿などを見せることができるドリアンで代用してみたいと思いました。ドリアンは世界一臭い果物としても有名でイベントとしてのインパクトもあるので、お客様の興味をひけるのではないかなと考えました。ただし、ドリアンはジャックフルーツと違って野生のシシオザルの採食果実ではなく生息地にもないものなので、誤解を与えないように伝える必要がありました。
それに、そのほかのトロピカルフルーツも一般のお客様は原産地まで知らない方が多く、見栄えがするからと安易に使用すると間違ったイメージを植え付けてしまいかねないので、伝える際には注意しています(ドラゴンフルーツは南米産)。
このように、食べものをテーマにしたイベントも行っているので、注目していただけるとうれしいです!

ときわ動物園の新イベント『突撃!ときわのサルごはん』について

(写真5)トクモンキーのハンモック上で食事

北 村
 確かに、川出さんのSAGA(注2)発表やホースの利用、トレーニングなど挑戦する心意気が素晴らしく応援したくなります。新しく面白そうなことへの挑戦する心は生来のものですか。それとも、学校の授業などを通して培ったものですか。

川 出
 ほめていただき、ありがとうございます。挑戦という意識はなく、動物のために必要なことをピックアップしているだけなのですが・・・。私は、ほんらい前に出るタイプではないですし、学生時代は目立たない方だったと思います。もし評価していただけるような心意気が育っているとしたら、仕事を始めてからではないかと思います。
それに、この園の宮下園長は、末端の飼育員にも歩み寄ってよくお話しをしてくださるので、職場の雰囲気も明るく、楽しく働かせていただいているからだとも思います。

北 村
 ホースの利用などで電動ドライバー等を器用に使っていますが、それは富里の各種雑務での経験が活かされているのですか。

(写真6)間にエサを隠します(ときわ動物園公式FBから)

川 出
 はい。実は、私は不器用で学生時代も得意ではなかったのですが、実習で様々な工具を使用した経験がおおいに役に立っていると思います。それに今は、必要に迫られているので、それで徐々に上達してきたのかなと思います。

北 村
 授業の中で、面白く興味のあった科目はどんなものでしたか。

川 出
 正直、学校の成績はよくなかったのです(笑い)。でも、疾病の授業は好きでした。イヌ・ネコがメインの内容でしたが、先生のお話しが面白く、内臓や内分泌系の働きに関心を持つきっかけになりました。

北 村
 現在の職に就いていて、学生時代の何が役立っていると感じていますか。

川 出
 それは、学生課のみなさまからの礼儀や生活態度についての指導です。技術的なことは就職してからでも身に付きますが、何にでも丁寧に取り組む仕事に対する姿勢や目上の方への言葉遣いを、学生時代に習得するのはとても大切だと思います。

北 村
 最後に、実習や学校祭は死ぬほどがんばれとか、後輩に伝えたいことは?

川 出
 知識や技術は就職してから学び身につくことが多いのですが、学校で厳しく教えていただく礼儀や生活態度、またいろいろなことに興味関心をもつ姿勢を大切にしてほしいと思います。そしてそれぞれに進みたい分野で、就職して自分が何をしたいのか、それが社会にとってなぜ必要なのかを考える時間をもって、学生時代を過ごせるといいのではないでしょうか。
体が資本ですので体調管理をしっかりして、何事も死なない程度に頑ってください(笑)。

校長のまとめ

 2017年2月に「ときわ動物園」を訪問しました。
ときわ動物園の宮下園長は、大阪・天王寺の園長から、近畿大教授へ、更には現在のときわ動物園の園長という経歴、動物に対する情熱は人の数倍はある方です。
私とは、20数年来の知人ではあり、最近の活躍ぶりを知り、お二人に、是非、会ってみたいと訪問しました。
川出さんとはFB仲間です。彼女の担当動物の現場を見てみると、いろいろな仕掛けや工夫があり感心しています。川出さんは、22期生(2010.4入学2012.03卒業)は入学98名、卒業者は72名と、かなり学生の少ない時代でしたね。

 

(写真7)宮下園長と私

※注1-1:ハズバンダリートレーニング
日本語訳は「受診動作訓練」。動物園や水族館で、安全で健康的に飼育するため、採血や検温といった健康管理、緊急時の治療や投薬がしやすい体勢を取ることを覚えさせること。エサなどの褒美をあげることで、ストレスなく自主的に手足を出したり口を開けたりするほか、方向転換したり移動したりするよう教える。日本では、水族館のイルカやアシカへの訓練は進んでいるが、動物園での導入は近年本格化した。動物と飼育員両方の安全を確保するため、大型動物や肉食動物などで特に必要性が高いといわれている。
出典|朝日新聞掲載「キーワード」について

注1-2:環境エンリッチメント
動物園での飼育環境は、動物たちが長年かけて適応してきた本来の生息地の環境と比較すると、どうしても狭く、単純で変化が少ないものになりがちです。そこで、こうした飼育環境に工夫を加えて、環境(environmental)を豊かで充実(enrich)したものにしようという試みが環境エンリッチメントで、「動物福祉の立場から、飼育動物の“幸福な暮らし”を実現するための具体的な方策」のことを指します。(市民ズーネットワークHPから)

注2:SAGAとは
SAGA (アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)はチンパンジー(およびボノボ)、ゴリラ、オランウータンの3属4種に分類される大型類人猿の現状と将来について、研究・飼育・自然保護という立場から考えるために集まった非営利団体です。
SAGAでは、1998年から毎年シンポジウムを開催しています。シンポジウムでは、大型類人猿の研究・飼育・自然保護に関した多くの講演、発表、分科会がおこなわれ、興味がある方なら誰でもご参加できます。

第8回 おわり