第5回 特別授業「動物園の魅力を探る」
東京動物専門学校ではとてもユニークな授業をいくつも行っています。今回はそのうちの一つを紹介することにします。それは、本校1年生が毎年5月初旬、上野、多摩、横浜ズーラシア等の動物園を、与えられた課題を考えたり写真を撮ったりしながら「見学」するというものです。
学生の多くは、本校に入学する3月までは高校生の眼で動物園を見ています。しかし本校入学の4月からは、本校学生としてふさわしい動物に対する見方を持たなければなりません。その知識を養う訓練の授業です。
授業の内容はクイズ形式。楽しく、そしてさらに動物園の魅力を探りながら回ることができます。私が3年前上野動物園の自由見学時に学生に出した課題を紹介しますので、皆さんもぜひ一緒に答えてみてください。
課題
- 2代目園長 黒川義太郎を探す
- 昔の正門の写真を撮る
- ニホントキ(Nipponia nippon)を探し出す
- バオバブの木を見つける
- 丸ごとエサとなっているキャベツはどこか
- 鳥の卵はどこか
- 体重計に乗ったニホンザルは何キロ
- クマを大きさの順に並べる
◆問題1:2代目園長 黒川義太郎を探す
回答:正門を右に進み「閑々亭」の前の小路を下ると、インドライオンの前の奥に大きな像が表れます。黒川 義太郎(よしたろう)園長の銅像です。
銅像左側の碑文は、次の通りです。読みやすいよう白黒写真にしました。
前の動物園長黒川芳太郎君は性篤実温厚園の創設以来四十有二年の久しき間多くの禽獣魚虫を飼育し其堅忍不抜の努力は園の基礎を固め後進を指導教養して我動物園の祖と讃えらる
君は慶應二年東京番町に生れ明治二十五年農科大学獣医学科を卒業し直ちに本園に職を奉ず大正十三年二月園は東京市に下賜せられ君又東京市技師に任せらる昭和八年病を以て退き同十年九月二十日七十歳にして郊外松原に逝く
今や動物園の盛隆を観るに当り翁の高雅なる風格と偉大なる業跡を欣慕するの余り同志相計り碑を建て後世に傳ふ
昭和十二年三月 建之
25年間も園長であったとのこと。そして、当時は情報が少なく、よく分からない動物たちを飼育するので大変な苦労があったということが、この碑文に書かれています。
しかし私の世代は誰でもが、上野動物園長といえば古賀忠道園長と思うのですが、なぜか彼の像はありません、園内にあるのはこの黒川園長像のみです。なぜ、初代でなく2代目なのかが、少しだけ不思議です。
(注: 職務として園長名が使われるようになったのは古賀さんが初代ですが、最初の責任者は動物学者の石川千代松で動物園監督。2代目の黒川義太郎は動物園主任と呼ばれていたためだそうです。)
おまけ
戦争中、渋谷駅のハチ公像をはじめ寺院の梵鐘とか、数多くの鉄製品が金属供出(きょうしゅつ)、つまり、兵器の材料として集められました。この黒川翁像も、同じ理由で剥がされ供出されました。しかし、運よく使用されず倉庫に保管されたままになっていました。そのため、戦後に元に戻されたようです、銅板の隅の↓は一度剥がされた跡です。
2. 昔の正門の写真を撮る
動物の搬入搬出時にはこの門が多く使われています。特に、パンダ舎が近いこともあり、1972年(昭和47)10月に、国内初のパンダのランラン、カンカンもここを通っています。そして、2011年(平成23)2月には、今のパンダのリーリーとシンシンも、この門からトラックに乗せられ動物園に入りました。
最新の上野動物園広報誌「みんなの上野動物園」(vol.52/3,4月号,2016年)によると、この門は歴史が古く1934年(昭和9)に設置されています。
3.ニホントキ(Nipponia nippon)を探し出す
回答:閑々亭の少し先の左側に3羽のトキの像が現れます。
朱鷺のふるさとへのいざない
国際保護鳥「朱鷺」の最後の生息地佐渡・新穂村は、山野の緑や鳥がさえずる水辺の美しい村、能や人形芝居など伝統文化が息づき、人々に潤いを与える村である。
大正年間から昼夜を分かたず朱鷺保護活動に係ってきた村の歴史は、自然との調和の証でもある。
ニッポニア・ニッポンと呼ばれるこの鳥は、新穂村にある新潟県朱鷺保護センターと、中国の北京動物園との交流により、増殖の試みが継続して行われています。
このたびズーストック計画を推進する東京都のご配慮を賜り、由緒ある地に記念像を設置し、全世界との友好的交流により再び佐渡の空を朱鷺が飛翔することを願う。
このことを後世に伝えると共に、人々が朱鷺のふるさとと新穂村を訪ねられることを望むものである。
平成三年三月吉日 新潟県新穂村
保護センターのある新穂村は、合併により佐渡市新穂となっています、最後のトキの「キン」はセンターで飼育され、35才で死亡しています。ご存知の通り、その後、中国から新たなトキの寄贈を受けて以来、順調な繁殖が続き、2008年(平成20)9月に10羽のトキが、初めて、大空に放鳥されました。それは、この碑文の設置された平成3年(1991)から17年後になります。
現在、佐渡市にある保護センターは拡大され、トキの森公園内の一施設となっています。前部に「トキ資料展示館」、飼育トキを間近に観察できる「トキふれあいプラザ」。そして奥が、関係者のみが入ることができる「保護センター」となっています。トキ保護センターは環境省、残りの施設は佐渡市の所管です。
現在は、193羽が生存。我が国の希少種の野生復帰の数少ない成功例であり、今後、このような飼育動物園が、徐々に増加していくかもしれません。
おまけ:ズーストック計画とは
この説明版の中に、ズーストック計画というのがあります、その概要は、1988年(昭和63)に東京都が、希少動物の保護増殖に関する「ズーストック計画」を作成しました。その後、更に、動物園を環境学習の場としても位置付ける「ズー2001構想」に発展。希少種、50種をズーストック種に設定し、都立4動物園(上野、多摩、井の頭、葛西)で分担飼育し繁殖を図るというものです。代表例として、霊長類のゴリラは上野で、オランウータンとチンパンジーは多摩で、それぞれ飼育することとしました。 この分担飼育直後には、上野からライオンがいなくなったことが、大きな話題として新聞紙上で取り上げられました。「ライオンのいない動物園は、動物園ではない」という大きな反響でした。現在、上野では都民の要望に応えインドライオンを展示しています。最新版としては、2011年(平成23)9月に、「様々な動物の魅力的な展示を通して、野生動物保全の重要性を国内外へ発信する動物園」などの役割を果たすなどを内容とする「都立動物園マスタープラン」が策定されています。
おまけ:佐渡のトキと都立動物園の関係
トキと上野動物園の最初の関わりは1953年(昭和28)に佐渡で負傷し、両津高校で飼育されていたトキ(ハル、♂)が上野動物園に保護収容されたことに始まります。
1965年(昭和43)、都立3圏からなる「トキ保護実行委員会」 が設立され、その後、文化庁から「トキの保護増殖に関する調査研究」の委託を受けました。
1971年(昭和 46)には新潟県との間で「トキの健康管理と飼育管理に関する協力契約」を結び、都立動物園のノウハウを佐渡のトキ飼育に活用することとなり、定期的に動物園の獣医師と飼育職員が佐渡トキ保護センターに出向いて直接,助言を与えるなどこの関係は現在も続いています。
2007年(平成19)末に、トキ保護センター以外、初の飼育施設となった多摩動物公園にやってきた 2つがいのトキは,2008年(平成20)春に8羽が繁殖に成功し、2009年(平成21)秋に佐渡の空に放されました。2016年(平成28)6月現在の国内の飼育数は、193羽です。
◆4. バオバブの木
アイアイのすむ森の入口から木道を進むと、大きな擬木のバオバブが現れます。生きているバオバブは両生は虫類館のガラパゴスゾウガメの前にあります、高く伸びており、前の擬木と、同じものとは思われません。
おまけ、その1
数年前に、アイアイのすむ森、担当のOさんから、バオバブを「実生」から育てているとの話を伺いました。下の写真のように、大きな実の中に小さな種が入っており、この種を植えると下の写真のように大きくなったとのことでした。場所は、アイアイ舎の職員入口横の壁側です。
現在は、この様に大きくなっており、実がついていました。
おまけ、その2
木道を渡り終わり、フォッサの横にある大きな木は、「ジャカランダ」です春には、紫色の花が満開で、、「アフリカのさくら」と言われています。下の写真はジャカランダが花をつけている姿です。オーストラリアのタロンガ動物園へ訪れた際に、シドニーのフェリー乗り場で見つけました。南半球の春の10月頃です。
◆5.丸ごとエサとなっているキャベツはどこか?
上にはモノレールが走っていますが、エミューは、気にせず食べていました。午後4時の撮影です。タイミングは難しく、数回行ったり来たりする必要があります。
◆6.鳥の卵はどこか
あちこちにありますが、鉄柵に掲げられ、エミューの卵(5~600g)をニワトリ(5~60g)と比較しています。◆7.体重計に乗ったニホンザルは何キロ
このサルは、10.3Kgでした。上野のサルは、頻繁に体重計に乗るので、写真を撮るのはそれほど難しいことではありません。力の強いサルが、独占しているのかと思いましたが、色々なサルが計測していました。◆8.クマを大きさの順に並べる
次のような解説版が掲載されています。看板を見つければ一目瞭然ですね。以上簡単におまけを含めて解説してきました。皆さんは、何問答えることができたでしょうか?
本校では今春から、職業実践課程の一環でこのような自由見学授業を、さらに一歩進めました。上野、多摩、葛西水の都立3園のベテラン飼育関係者にお願いをして、動物園や水族館の楽しみ方から始まり、その魅力や飼育係としての見方など、少人数制で1日をかけて教えていただきます。そして時には、その施設に働いている先輩から、直接話を伺うことができるという内容の特別授業です。体験した学生に感想を聞いてみると、一日動物園水族館滞在は、人生初めての経験であり大変な感激の様子でした。
第5回 おわり