卒業生に聞いてみました 東京都葛西臨海水族園 内山さん 前編
内山 幸さん(24期生) (東京都葛西臨海水族園勤務)
(習志野市立習志野高等学校卒、本校2012年4月入学/2014年3月卒業)
ほぼ2年間にわたって全国の動物園水族館にコロナの影響がありましたが、ようやく沈静化がみられるようになったので、久しぶりにインタビューすることになりました。内山さん、ご協力ありがとうございました。
北村 まず、本校卒業後の職場と仕事の内容を教えてください。
内山 卒業後は、上野動物園に嘱託職員として3年。最初は鳥類の孵化育雛、水禽の担当、その後、フォッサやマダガスカルトキ、ホウシャガメなどのマダガスカルの動物を担当しました。そして、正規職員として3年。両生爬虫類館にて、ガラパゴスゾウガメやビルマニシキヘビ、ドクトカゲ類や日本産の両生爬虫類を担当して計6年務めました。
その後、葛西臨海水族園に異動になり、ペンギン類、海鳥、水鳥などの鳥類の担当をし、今年で3年目になります。
東京都恩賜上野動物園時代(2017年撮影)
北村 水族館勤務は、希望していたのですか?
内山 いえ、希望はしておらず予想外のことでした。異動が決まったときは驚きました。
現在の内山さん。水族園のドームをバックに(東京都葛西臨海水族園提供)
北村 学校を受験しようと思ったのは、何年生の頃で、それはどういう理由からだったのですか?高校生の時について思い出すのは難しいかもしれませんが(笑)。
内山 いえ、思い出せますよ。そんな昔のことではありません。(笑)
3年生の、かなり遅い時期に決めました。実は、高校は商業科だったため、動物系の進路はあまり勧められず、商業系の学校への進学や就職も検討していました。しかし、どうしても小さいころからの夢が諦めきれずにいました。そんな中、動物関係の進路を目指していた先輩からいただいたパンフレットの中に東京動物専門学校がありました。
紙面に載っていた、動物飼育数の多さにビックリ。他の学校では学べないことが学べると思い、ギリギリ(12月中旬に実施された一般二次試験。)で受験をしました。
北村 そうすると、高校生の時には、葛西水に勤務するなんて想像もしていなかったのですね。
内山 はい。全く想像していませんでした。なにが起こるかわからないものですね・・・。
北村 高校時代の友達には、他の動物園や水族館に勤めている人がいますか?
内山 卒業した高校は、スポーツなどの部活動が盛んで、動物の「ど」の字もないような
学校でした。そのため、おそらく動物園・水族館の職員になった人はいないと思います。
私も高校は部活動が主目的で入学しました。
北村 そうですか。実は、毎年、入試の面接時に、受験生に本校の志望理由を聞くのですが、8割以上は子供の時に祖父母に連れられて行った動物園の思い出が強く残っていて、それで飼育員になりたいと思ったというのが理由とのことでした。
それでは続いて、学校時代のことについて質問しますが、2年間の座学や、所長の飼育実習について、現在の業務の中で「あのことは役に立ったなー」と思うことは何ですか?
内山 日頃の実習所での獣舎の清掃や調餌でデッキブラシ、ホース、包丁などの道具を日常的に使用していたため、学生時代の実習時や出勤初日から基本的な道具の扱いがスムーズにできていたのは大きかったと思います。
当時は何とも思っていませんでしたが、実習生を受け持つようになってから、初々しい掃除姿などを見るとそれを実感するようになりました。
それに動物について満遍なく授業があったため、鳥類の孵卵関係、施設の消毒方法、寄生虫などの情報、水族館の循環についてなど疑問に思うようなことにであっても、「あー、あそこで学んだな」と思い返し、資料や教科書を見返しできるようにもなりました。これは大きいですね。
北村 そうですか。確か、1年生時の5月、6月に社会学概論がありましたね。この概論とは、卒業生が自分の仕事の説明をしてくれるものですが、多分その頃も上野の藤岡さんが動物園について話していたのではないかと思います。
内山 上野動物園の藤岡さんや山岸さん、横浜ズーラシアの卒業生の方々のお話をよく覚えています。動物園で行われているトレーニングや、教育普及担当の仕事の話、あると便利な資格など、今の動物園で働くということや求められていることなどを学ぶことができました。
北村 やや寒い中のことですが、11から12月にかけて、冨里で特別実習、酪農、馬、犬、などの実習がありましたが、何か印象深く覚えていることはありますか?
内山 当時は動物園しか考えていませんでしたが、他の分野の実習することで動物関係
全体の仕事について視野が広まったと思います。
酪農では、働き方にもヘルパーなどの種類があることや、犬ではトレーニング訓練の基礎、乗馬の難しさやそこに至るまでの健康管理など、様々なことを学べました。
北村 今度は、学校祭について聞きたいと思います。確か、内山さんは中ふれあい班でしたが、学校祭で苦労したこととか、特に印象に残っていることは何ですか?
内山 学校祭は、室内でウサギやモルモットなどの小動物のふれあいを実施する班でしたが、夏休みをほぼ返上して装飾の作成や準備をすることが大変でした。2年生のときは動物園での実習や就職試験の勉強もあったため、かなり忙しくしていたと思います。
ふれあいに関しても、個体の選定や、動物の負担を考慮したふれあいに出す時間と休息させる時間の調整、動物に触りなれていない人への説明やサポートの方法の共有など、大変なことはたくさんあり、毎日班員で反省会や情報共有をしていました。
ただ、それまで動物について勉強したり、掃除や給餌などの飼育をしたりと、
「対動物」のみをしてきましたが、「動物と人の間に立てた初めての時、体験」でもあったので、そのことが将来はそういった仕事に就きたいとより強く思った時でもありました。大事な思い出のひとコマです。
1年生の時の中ふれあい班の写真。ナミジサイチョウの説明をしているところ
北村 研修について聞きます。内山さんは、多摩動物公園(夏休みの実習)・那須動物王国(施設研修))が施設研修先でしたが、その選んだ理由は何ですか?
内山 多摩動物公園は、シンプルに好きな動物園であったことと、都立の動物園で学べることはたくさんあると思ったため選びました。
那須どうぶつ王国は、展示や保全の他にショーやふれあいなども行われているため、動物園として多摩とは違う面を学べると思い選びました。
研修を通して、動物園によって特色やコンセプト、働き方の違いなどが様々あることを学
ぶことがきました。実際に経験できたことで視野が広がって、技術や知識的にもたくさんのことを学べた上に、自分がやりたいことなどがより明確になったと思います。
研修先の東京都多摩動物公園のコアラ
研修先の那須どうぶつ王国のバードパフォーマンス
北村 葛西水族館に勤務して3年目ということですが、一番面白い仕事の内容はどんな事ですか?
内山 そうですね。上げるのが大変なくらいたくさんありますが、あえて取り上げるなら繁殖期の仕事がおもしろくて好きです。
1年の中でも本当に忙しい時期で、体力的にはきつくもあるのですが、種によって営巣方法や繁殖方法に違いがあり、その生き物の野生での生息地や、そこでの生存戦略、生き方などを1番感じ、学ぶことができる時期です。すべての種類に言えますが特にオウサマペンギンやウミガラス・エトピリカなどが上げられますね。
孵化した雛が育っていく様子を観察できるのも楽しみですね。
自然育雛の場合でも、飼育係は雛の成長を見守るだけではなく、親が雛を育てることができる環境の設定、雛の成育状況や健康状態の観察、親からの給餌の有無の確認など、やるべき仕事はたくさんあるため、苦労が絶えないのですが、雛が無事に成育した時はホント嬉しいです。
北村 本校卒業生らと仕事上で、何か交流はありますか?
内山 同じ班になったことはありませんが、係や園単位で一緒に仕事をしている方々はいます。動物の捕獲・保定・搬出・搬入、荷物の運搬などの人数が必要な作業で一緒に仕事をしたり、業後に動物のトレーニングについて教わったり、現在の水族園では、一緒に潜水訓練に行ったりと交流はあります。
東京動物専門学校というくくりでは意識していませんが・・・、こちらでは「川原」というとすぐに伝わります。(笑い)
北村 夏休みや有給は、消化していますか?
内山 有給休暇はむしろ取得しないといけないため、しっかり取っています。
もちろん、動物相手の仕事なので、時と場合によっては朝早く夜遅い日があったり、急遽出勤したりすることもあります。ただ、そのような場合は、一緒に組んでいる職員と相談したうえで休みを別日に振り替えたり、時間休をとったりすることができています。
北村 仕事上、たとえば他校の卒業生や大卒者と比較して、何か違いを感じることがありますか?
内山 ウーン、難しい質問ですね。職員の立場で実習生を見ていると、真面目で質問などが熱心な人が多い印象です。あとデッキブラシなどの道具の扱いが上手です。実際に働いている人たちは皆さま個性豊かで、ひとくくりにはできないですね。
北村 専門学校は2年間でしたが、もう少し長い方がいいと思いましたか。それとも、2年間の学びで十分と思いましたか?
内山 動物について学ぶことは就職してからも続くので、何年あっても学びきれないですが、専門学校での勉強は2年間で十分できたかなと思います。飼育係は特別な資格があるわけではないので、個人的には専門学校の時間で基礎を作り、他に自分で勉強や実習など、できることを積み重ねるのが大切だったと思います。
北村 24期生は、内山さんと、Kさん、Hさんの3名が嘱託で入りましたが、残っているのは?
内山 ウーン、残念ですが私だけです・・・!
北村 やはり、何事も継続するということは大変ですね。でも、頑張ってください。
色々と細かいこともお聞きしましたが、大いに参考になりました。次回は、ペンギン編として、掲載させていただきます。
長時間にわたり、大変ありがとございました。
学校同窓会時の内山さんとの写真(2015年)